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第三章 

19話)



 ・・・・意識を取り戻すと、朝だった。
 雅の姿は消えていた。嘘のように爽やかな朝だった。
「・・・昨日のは、夢だった?」
 独り言を言って首を振る。
 鈍い頭痛がしていたからだ。
 悪い夢なら、タチの悪い夢だ。
 無理矢理にでもそう思い込み、時計を見ると、起きる時間はとうに過ぎている。
 気分が悪いので休もうかと思ったけれど、一人で家にいるのはイヤだった。
 また雅が姿を現すかもしれないからだ。
 悪夢で片付けるには、リアルな記憶。
 のろのろ起き出して一階に降りると、間が悪い。
 翔太は晩のうちに戻っていたらしく、ラップをした料理は平らげられていて、食器棚に収納されている。彼の姿はなかった。すでに学校に出たようだ。
 最近の翔太は朝錬があったりするので、朝は早いのだ。
『よく寝てるから、起こさなかった・・・。朝ごはん作っておいたから。』
 と、メモ書きがしてあって、食卓にはロールパンとコーヒーが置いてある。
「ご飯作ったって、コーヒー沸かしただけじゃん。」
 一人愚痴るが、用意してある朝食を手にとって食べ始める。
 食欲がなくても、食べないと学校で倒れそうだ。
 最低限の用事を済ませて、弁当も一人分だと作る気にもなれない。購買部でパンでも買おうと思った。
 いつもより一本遅い電車に乗り込み、学校に行くといつもと景色がちがう。
 報道陣が校門前に出張っていて、生徒達に質問する姿が見られた。
(雅の事かな・・。)
 昨日、テレビでやっていたニュースの事を思い出す。
 同時に、一連の雅本人の幽霊が出現した事まで思いだして、ゾッとなった。
 ノロノロ歩いていると、肩をポンと叩かれてギョッとなる。
 振り返ると、真剣な顔をした優斗だった。
「どうなっているんだ。これは。」
 問われる意味が分からない。
(雅が自殺した事?)
 なぜこんな事になっているのか、私にもわからないわ。
 答えようと口を開けようとして、彼の言葉に阻まれてしまった。
「何で芽生に行くんだ。俺に来たらいいだろう。」
 小さく怒鳴る彼の声。視線はこれ以上ないくらいに険しい。
 睨まれて怯える芽生だったが、彼の視線の先が、自分に向いていないのに気付いてハッとなる。
 彼の視線の先は・・・。
 誰もいない芽生の背後にあった。誰もいない空間に話しかけていたのだ。
 少しの間、問いに対する答えを待つかのように沈黙した彼だったが、首を振ってため息をつく。その顔は、ただならぬ気配をたたえている。
「芽生。さすがに今日は休むぞ。」
 いきなり言って彼は、芽生の手を引いて校門を出て行った。
 その際に、通りすがりの友人に、ちゃっかり休む連絡の代行を頼むのも忘れない。